Naoko Aoki

青木菜穂子

Buenos Aires,Mi Refugio | 私の隠れ家

青木菜穂子は、アルゼンチンでニコラス・レデスマに師事し、ブエノスアイレス市が持つタンゴ・オーケストラ「オルケスタ・エスクエラ・デ・タンゴ」のピアニスト(唯一の日本人)として現地で活躍したタンゴ・ピアニスト。

本作は青木菜穂子名義での2作目にあたるCD作品で、古典から現代に至るまでのタンゴ曲を、現代のブエノスアイレスのタンゴ潮流に相応しい現代的解釈で表現した現代タンゴアルバム。そこには、タンゴの範疇に止まらない緻密な現代アレンジメントのエッセンスや、生きた音楽としての繊細かつ激性あるエスプレッシヴォな演奏表現、またその背景にある多面的な音楽要素や文化要素などが融合している。それは日本ではなかなか紹介されることのない「ブエノスで現在生まれているリアルなタンゴ」であり、実際にブエノスアイレスで活動を共にしてきた優れた演奏家と練りあげられた生きた音楽である。参加演奏家も、レオポルド・フェデリコ楽団など、現存する有名タンゴ楽団のほぼ全てに参加しているオラシオ・ロモやパブロ・アグリ、ダニエル・ファラスカといった現在考えられるタンゴ最高のメンバーである。また、東京録音の、現代音楽的要素を多く鏤めたラミロ・ガジョ、そして青木本人のアレンジメントによる「日本から見た未来のタンゴ」が、ブエノス録音とは対極に位置するよう収められている。

Bishop Records より)

ブエノスアイレスをこよなく愛するピアニスト青木菜穂子のセカンド・アルバム。それぞれまとまっていて構えていなくても絹織物のように心地よく入れる世界、若さとタンゴ伝統への愛情がバランスよく融合しており、(3)(8)(9)など変化に富んだ演奏の中にも古典的気質の息つかいを感じる。メンバーはアルゼンチン若手実力派が登場。タイトルにもある(4)は、師でもある超マルチピアニスト、二コラス・レデスマ編の5分半にも及ぶピアノソロ。思いきりロマンチックなカルロス・コビアンの作品であるが、単なる技巧を超えた風格が漂う。ここでは演奏してないがヴァイオリンのラミロ・ガジョのコンテンポラリーな作品憂鬱なセレナーデ風といったところ。(6)(7)は、あくまでもデフォルメした具象ではなく幾何学的なフレーズの遊びのようだ。世にも美しいタンゴ(10)、何を取り繕うこともなく素直にせつせつとうたいあげる心が、一番の説得力になることを教えてくれるアルバムである。

加藤真由美、「Latina」2006.12月号 より)

このピアニストは2002年単身ブエノスアイレスに渡りエミリオ・バルカルセが指導する楽団のオーディションを受けて合格、2年間の研鑽を経て大輪の花を咲かせた。この2枚目のアルバムは06年はじめ、再び渡亜して前回同様オラシオ・ロモ(bn)、パブロ・アグリ(vn)、ダニエル・ファラスカ(bj)という一流メンバーと組んだ4重奏を中心に自身のピアノ・ソロ2曲、会田桃子(vn)とのドゥオ3曲が収録されている。ニコラス・レデスマ編曲の表題曲(ソロ)とバイオリンとのドゥオを除き全て青木のアレンジだが、これが実にレベルが高い。「シウダ・トリステ」「ノクトゥルナ」など日本とアルゼンチンのタンゴ界の距離を感じさせない。「レクエルド」で例の変奏をピアノで奏したあと終曲に持ち込むあたりの豪放なピアノが素晴らしく、「コパカバーナ」でのパブロ・アグリによるとろけるようなバイオリンも聴きものである。

石川浩司、「タンゴの部屋」 より)